「あー…疲れが取れる…。」
「そうだね。冬のお風呂ってじんわりする。」
「なーに年寄りみたいなこと言ってんの?」
「だって本当にそう思ったんだもん。」

 白く濁ったお湯に二人で浸かると、湯船から出そうなくらいのお湯の量だった。向かい合わせになって目が合うと、健人は嬉しそうに微笑んだ。

「…顔、緩んでる。」
「へへ。だって可愛いなって思うんだもん。髪、ぴしっと結ってる綾乃ちゃんはできる女って感じでかっこいいけど、髪ほどいて濡れてる綾乃ちゃんは可愛い感じになってさ。こういうの、俺しか知らないのかーって思うと…嬉しいなぁって。」
「…あー…そっか。確かに髪濡れてる姿とか前の彼氏とかにも見せたことない。ほんとに健人だけだ。」
「…前の彼氏さんの話はやめてください。」
「えーだってあたしが振られたんだからいいじゃん。」
「だめ。前の彼氏という肩書だけで嫉妬するもん。」
「…だいじょーぶ。前の彼氏なんかよりも健人の方がよっぽどあたしのことを知ってるよ。いいところも悪いところも。」
「…なら、いいけど。」

 この独占欲も、きっと前の彼氏だったらうざったかっただろう。こういうものを可愛いと思わせる21歳忠犬男子の力は凄い。

「綾乃ちゃん。」
「はーい、何でしょう?」
「ま、瞼になんかついてる。」
「あ、ほんと?取って取ってー。」

 多分、これは嘘。でも可愛いし、色々我慢してくれてるからこれくらいは許してあげよう。
 静かに目を瞑ると、火照った唇が重なった。最初の一回は遠慮がちに重なるのが健人のキスだ。

「…何もしないんじゃなかったの?」
「…キス、は…何かに入らなくない?」
「うわー健人がそんなことを言うようになったか!」
「え、怒ってる?」
「怒ってないよ。」

 ご褒美にもう一度、今度は綾乃の方から唇を重ねた。唇を離すと、健人がにっこり笑っていた。

「…嬉しい。」
「でしょうね。」
「綾乃ちゃん、もう1回、いい?」
「いいよ。」

 結局はもう1回どころかもう7回ほど唇を重ね、忠犬は満足したかのように綾乃の身体を抱きしめた。