「綾乃ちゃん、髪も洗っていい?」
「うん?」
「やった!」

 何故か健人は髪を洗うのが好きらしく(そして洗ってもらうのも大好きである)、いつも喜ぶ。その指が気持ちよくて、なんだかんだで綾乃の方も健人が髪を洗ってくれることを気に入っている。

「健人は器用だよね。」
「器用…かなぁ?」
「指先器用だなって思うこと、結構あるなぁ。髪洗うのも上手だし、料理もだけど。お裁縫はあたしの方が上手いけど。」
「…そう、だね。裁縫は不得意かな。髪は好きなんだ、触るのが。料理も綾乃ちゃん、美味しそうに食べてくれるから好き。」
「あーそれ、めっちゃ気持ちいい!」
「あ、ここ?」
「うんそこ!健人の指は気持ちいいからさ、眠くなっちゃうんだよね。」
「寝てもいいよ。だっこしてあげる。」
「あーそれはだめ!忘年会とか連日の飲み会で太ったから!」
「太ってないよ?前と同じ。」
「あ、今お腹の肉見たでしょ。」
「み、見てません!」
「はい、嘘つけないー。」
「…やっぱだめだ。」

 健人は嘘をつけない。それは同じく綾乃もだが。
 シャワーから出るお湯が綾乃の髪を流れていく。泡も一緒に排水溝に流れていく。

「はい、じゃあ交代。健人の髪洗ってあげるー!」
「わーやった!ありがとう、綾乃ちゃん。俺、綾乃ちゃんが洗ってくれるの大好き!」

 小さな鼻歌まで飛び出すくらいには嬉しいらしく、ふんふん鼻を鳴らしている。忠犬はご機嫌だ。

「綾乃ちゃんの指は優しいね。」
「あ、物足りない?かゆいとこある?」
「ううん。大丈夫だよ。」

 ふわふわの髪に触れることが、綾乃も好きだ。濡れるとより幼い顔になってしまうけれど。本人はそれを気にしているようで、お風呂の鏡は見たがらない。(そういうところもやっぱり可愛いと思う)