「え、今度は何?スーツ着てないよ?」
「…やっぱり健人は可愛いんだよ。自覚して。」
「えーそんな自覚嫌だよ!男なら可愛いよりかっこいいって言われたい!」
「じゃあかっこいいことしてよ。」
「…かっこいいこと?綾乃ちゃん的にかっこいいことって何?」
「…待って。ちょっと真剣に考えるから。」

 綾乃は腕を組んだ。健人のオーダーは『綾乃ちゃん的にかっこいいこと』だ。綾乃は、いわゆる普通の女子とは少しずれていると言われがちだが、今日はそれを気にしなくていいということらしい。

「腕の筋!腕ぐって力入れてみて!」
「腕?ぐっ?」

 健人のセーターの腕をまくり上げた。

「ぐっ!」

 白い右腕に筋肉の筋が見える。これが好きだ。

「あーそれ!それはかっこいい!なんだ!健人もちゃんとかっこいいじゃない!」
「え、待って。こんなんでかっこいいなの?よくわかんない…。」
「かっこいいでしょ!こんなのどれだけ鍛えてもできるようにならないからね女は!」
「だってできるようになる必要ないじゃん!」
「あ、他にもある!」
「…次は何?」
「頭ポンポン。」
「頭ポンポンってこう?」

 健人の大きな手が頭の上に乗った。ポンポンと軽く撫でられる。ふと考えると、これはよくやられている。

「…これ、いつもと変わらないよね。」
「うん。綾乃ちゃんに俺、よくやってるよね。」
「…待って。このままじゃ健人がかっこいいことになっちゃう…。」
「だめなの?かっこいいって言ってくれればいいだけじゃないの?」
「だってどうしても健人はかっこいいより可愛いなんだもん!」
「でも綾乃ちゃん的にかっこいいこと、してるしできてるよ?」
「…健人ができなさそうなかっこいいこと…探してるからちょっと待ってよ…。」

 健人の作ってくれた美味しい料理を口に運びながら考える。健人ができなさそうなかっこいいこと。世間では何をかっこいいと言っているんだろう。