サンプル~壊れた教室~

 はーい、と返事をそこそこに、今度は

生徒たちの自己紹介がはじまる。

「ねぇねぇ。この学校、怖い噂があるん

だって」

 一番前の男の子が、隣の女子に話しか

ける。内容は、この学校の怖い噂につい

て。

「この学校、夜に白い服を着た女の人が

動き回っているんだって」

 アホ毛のある男の子は、まるで内緒話

をするみたいに言った。

「え、怖-い!」

 隣のくせっけのミディアムヘアーの女

の子がやけに派手にリアクションを取っ

た。

 綺月は自己紹介なんか聞かず、その内

緒話に聞き入っている。

「はい、そこ。静かにねー」

 そう言ったものの、その噂のことで頭

がいっぱいだった。

 いけない子ね。誰からそんな噂聞いた

んだろう。

 綺月はにやりと微笑んで、ボソッと呟

いた。

 数年ぶりにあの校舎が焼けた後に行っ

てみたら、そこには故・橋本先生の書い

た本があった。

「私だったら、数年前のあの時もっとう

まくいってたのに。ねぇ、橋本先生?」

 教え子は、師のあとを継ぐのか。

 教え子が、師に似るのか。

 綺月の個室のロッカーの中に、サンプ

ルの作り方が書かれた故・橋本淳先生の

本があったことは、いまだ誰も知らない。

 どこか遠くで、ハイヒールの音がした。


          END