サンプル~壊れた教室~

【亜梨朱side】

 綺月は泣き出しそうな顔でシャッター

の向こう側に行った。いや、正確には連

れ込まれたのか。

 ごめんね、目障りだとか気持ち悪いと

か言って。そんなこと全く思ってないか

ら。

 ごめんね、最期まで一緒に生きられな

くて。いつか外の世界で笑い合いたかっ

たんだから。

「神威君、綺月と仲よくね。綺月、一緒

にいられなくてごめん。さようなら」

 私の頬に、温かな涙がこぼれ落ちた。

 死ぬかもしれないけれど、全く怖くな

かった。

 向こうに、サンプルがいる。憎らしき

たった1体。

 私は綺月に向かって言った。

 それは、終わりの言葉でもなく、はじ

まりの言葉でもない。

 楽しい言葉でもなく、悲しい言葉でも

ない。

 だけど、大切な一言。

 聞こえたか分からない。

 でも私は伝えた。






「・・・ありがとう」