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「明日からは刀作りに入らなきゃならない。一度仕事にかかるとかなり集中しなきゃならないから構ってやれない」

白鷺が朝御飯を食べながら私に視線を向けた。

「……そう……頑張ってね」

白鷺の元にはしょっちゅう手紙が届く。

多分遠方の依頼人からの注文書なのだろう。

それだけ白鷺の日本刀は人気だということだ。

「俺は……夜に鍛練するから、一緒にいてやれない」

白鷺は私が未だにこの世界の夜に慣れないのを心配しているのだ。

幕末と言えども、江戸時代の夜は驚くほどに暗い。

白鷺の家には行灯や蝋燭があるけど、それでも現代の暮らしに馴れきっている私には暗すぎて怖い。

おまけに風が強い夜はガタガタと戸口が鳴る。

その度にビクリとする私の手を、白鷺が静かに握ってくれていたのだ。

「……大丈夫だよ」

私は頷いた。

刀作りの邪魔までしたくなかったから、平気だと言うしかなかった。

その時、ふと思った。

宗太郎は?

宗太郎なら、夜は仕事じゃなかったりして。

太刀とか普通の刀だったら二人で鍛練するかもだけど、小太刀とか脇差とか、短い物なら独りで叩くんじゃ?