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思いきって村に降りてみようと思ったのは、白鷺が着物を買ってきてくれていたからだった。

「柚菜のその格好は目立つ。この着物を」

白鷺はそう言うと、濃い藍色に細いストライプ模様の、落ち着いた感じの着物を私に差し出した。

「ありがとうございます!凄く嬉しい!」

本当は、宗太郎が泊めてくれた翌日には働き口を見つけたかったけれど、とにかく過去の日本のどの時代に飛ばされたのかが分からなかったし服が服だけに動けなかった。

「ちゃんと働いて着物の代金もお支払します」

白鷺は宗太郎が帰るまで私を家に置いてやると言ってくれたけど……やっぱり申し訳ないし。

「あの……西山さん。今って、年号はなんですか?」

まあ、年号聞いたところであんまり分かんないんだけどね。

「今は文久二年だが」

やっぱりな!さっぱり分からんわ!

「……はあ」

文久二年が西暦でいうところの何年になるのかが私にはさっぱり分からないけど、どうやら江戸時代……しかも幕末であることは確かだった。

だって、

「……坂本龍馬って知ってます?」

私が恐る恐るそう尋ねると、白鷺は作業用の着物に通す手を一瞬止めてこう言ったから。

「土佐の……脱藩浪士の?」

もう既に、坂本龍馬は脱藩したとなると……。

したとなると……。

したとなると……。