白鷺の剣~ハクロノツルギ~

「柚菜」

拓也?

いや、拓也のわけがない。

拓也とは離婚して……。

「柚菜」

低くて聞き心地のよいこの声の主は……。

ゆっくりと瞼を開けると、私は息を飲んで眼を見開いた。

「おっと、こんな至近距離で叫ぶな。頭に響く」

素早く私の口を手で塞いだのは、紛れもなく白鷺だった。

お互い横向きに寝そべり、白鷺に腕枕をされ、挙げ句に彼の右足が私の身体を挟むように絡み付いている。

「あ、あの、ふがっ」

クスリと笑って白鷺が私の口から手をどけた。

「おはよう、柚菜」

ゆ、ゆ、柚菜っ!

サッと血の気が引いた。

なんで急に名前、しかも呼び捨て!?

やだ、ちょっと待って、今思い出す……。

焦る私を見て、白鷺が笑った。

至近距離から見る白鷺の端正な顔立ち。

通った鼻筋と精悍な頬。

逞しい首から肩にかけてのライン。

なに、この恋人同士みたいな密着度は。

私は一体、彼に何をしたんだろう。

ヤバい、嫌われたら剣が。

私は白鷺から離れようともがいた。

「あの、西山さん、ごめんなさい!私何か失礼な事を……」