このまま死ぬなら、私が白鷺一翔に宿って、いつまでも白鷺を雅さんの生き霊から守ってあげる。

「柚菜!柚菜!」

ダダッと床を駆け寄る音がしたかと思うと、白鷺が私の名を叫んだ。

慈慶さんのお経で雅さんのかけた術が解けたのかもしれない。

「白鷺……ごめん、刺されちゃった」

白鷺は私を膝に抱き上げて顔を覗き込むと、眉を寄せて首を振った。

「ダメだ、柚菜、死ぬんじゃない!」

私は少し笑った。

「ごめん、だけど安心して。私が白鷺一翔の中に入って……雅さんの生き霊を封じ込めるから……」

雅さんの苦しむ声と力強い慈慶さんのお経が部屋に響く中、青白い光の玉が飛び交い、私たちを包んでいた。

そんな幻想的な光景の中で、白鷺が再び口を開いた。

「一目惚れだったんだ」

……え?

意識が無くなりそうになる中で、白鷺が私を見つめて切な気にそう言った。

「初めてお前を見た時から、俺は惚れてた、お前に」

白鷺の涙がポトリポトリと私の頬に落ちて、私はそんな白鷺を呆然と見つめた。

一目惚れ?……私に?

「一目惚れだった、お前に。けれど他人の人生をめちゃくちゃにした俺には誰かに愛を告げる資格などないから、言えなかった」

胸の痛みが全身に広がっていき、やがて私は眼を閉じた。

「夢みたい……凄く嬉しい……」

「ダメだ、眼を閉じるな!!柚菜、柚菜、死ぬなっ!」

ああ、もうダメだ。

氷の中に沈み込むような冷たい感覚。

私はありったけの力を振り絞って白鷺の手を握った。

「白鷺、死んでもあなたを守るから。だから私の分まで幸せに生きて」

白鷺が幸せならそれでいい。

たとえこの身が滅びても。

私は全身の力が抜けていくのを感じつつも、白鷺を思いながら意識を手放した。