「なにそれ、弱っ!それに、六道さんは僧侶じゃなくて、宮司だよ。あそこ、神社だもん」

「何だとこのブス!いちいちうるせえ!」

たちまちのうちに私達はバリバリと睨み合ったが、やがてミカヅチ様は床の上の木箱に歩み寄ると荒々しく蓋を跳ね退け、中にあった剣を掴み出した。

「……きゃあっ!」

木箱は紫の靄に包まれているのに、剣は目映いばかりの銀の光を放っている。

思わず眼を背けた私に、ミカヅチ様は言い放った。

「いいか、よく聞け。さっきも言ったが俺は今、時を越える事が出来ない。かなり頼りないがお前しかいないんだ。
白鷺に会わせてやる代わりに、剣を一振りさせろ。それを必ず持ち帰るんだ。わかったな!?」

嘘でしょ、冗談じゃない!

「ほんとに昔の日本に飛ばす気!?嫌だ、行きたくない!」

ミカヅチ様は、剣を眼の高さに上げて縦に構えると、ゾクッとするほど冷たい光を宿した瞳を私に向けた。

「お前に拒否権などない」

その時である。

眼にも留まらぬ速さで、ミカヅチ様が私の首に片腕を回した。

「きゃあああっ!!」

なに、何なの、背中が……!!

焼け付くような激しい痛みを背中に覚え、私は咄嗟に悲鳴をあげた。

「上手くいったらそれなりに礼はする。
いいか。白鷺に会ったら背中を見せろ。これと寸分たがわぬ剣を作らせて持ち帰れ」

それって、まさか私の背中に……!

一発殴ってやりたいけど、焼け付くような背中が痛くて目眩と吐き気が半端ない。

「ミカヅチ……」

のバカ、と言ってやりたかったが、私はとうとう目の前が真っ暗になり、やがて何も分からなくなったのだった。