白鷺の剣~ハクロノツルギ~

「でも、誰の声かは分かりません」

「この懐剣の主は、生きています」

私は驚いて慈慶さんを見つめた。

「でも……部屋は青白くて火の玉みたいなものも見えましたけど、女の人なんていませんでした」

そう答えた私に慈慶さんは首を振った。

「柚菜さん、その懐剣の主は生きている女性で、昨夜あなたを襲ったのはその人の生き霊です。この懐剣からは、生き霊の気配が漂っています」

心臓を掴み上げられたような気がして、私は眼を見開くと大きく息を飲んだ。

いきりょうって……。

「生き霊とは、まだこの世にいる人間の強い念が霊となって現れる現象です」

バクバクと心臓が早くなり、冷や水をかけられたように身体中が冷たくなっていく。

生き霊という言葉は幾度となく聞いたことがあった。

でも実際に目の当たりにした事なんてない。

私は声の震えを止めることが出来ないまま、慈慶さんに尋ねた。

「生き霊を祓う事は可能ですか?」

慈慶さんは眉を寄せてホッと息をついた。

「念が強ければ強いほど、難しいでしょう。お話を聞く限り、その生き霊は白鷺さんに激しい愛情を抱いているようだ。白鷺さんに対する遂げることのできない、成就することのない一方的な愛が、身勝手で歪んだ念となり生き霊と化したのだと思います。そういう生き霊は……極めて難しい」

目眩がしてフラリと床に手を付く私に、慈慶さんは心配そうに手を差し伸べた。

「大丈夫ですか?」

「すみません、平気です」

私は相談に乗ってくれた慈慶さんに丁寧にお礼を言うと、深々とお辞儀をしてお寺を後にした。