「また叩かれるかも知れないけど、言わずにはいられない。以蔵さん、武市さんに恩があるのは分かるけど、あなたに人を殺させる武市さんはとてもじゃないけど」

その時突然、以蔵さんが荒々しく私の肩を抱いた。

「柚菜、これ以上泣くな。俺を止めるな。俺は……勘違いしそうになる」

次の瞬間、以蔵さんの唇が触れた。

私の唇に。

最初は優しく、それから唇を割るように深く口付けられて、私は眼を見開いた。

その直後、なにか苦い液体が口の中に広がり、私は顔をしかめて身をよじった。

けれど以蔵さんは私を抱き寄せたまま斜めに頬を傾けて強く口付け、鼻を塞いだ。

苦しくて思わずゴクリと喉が動く。

以蔵さんは苦い液体を私に飲ませ終わると、ゆっくりと顔を離して私を見つめた。

「い、以蔵さん……今のはなに……?」

徐々に身体が熱くなり、頭がボーッとしてきて、私は夢中で以蔵さんを見上げた。

「少しの間、眠くなるだけだ」

「嫌だ、以蔵さん」

以蔵さんは悲しそうに笑った。

「……もっと早く出逢いたかった、お前と」

「以蔵さ……」

ろれつが回らなくなり、私は以蔵さんを止めたくて必死でしがみつこうとした。

以蔵さんはそんな私を抱き締めると再び口付けてから頬を寄せた。

「柚菜、白鷺一翔は返す。俺の分まで幸せになれ」

ああ、ダメだ、身体が……。

「柚菜、さらばだ」

以蔵さんの唇と、逞しい腕の感触だけが最後に残った。

真っ暗な空間に落ちていくように、私は意識が遠くなっていくのを感じながら重い腕を必死に上げた。

「以蔵さん……」

身体が言うことを聞かず、眠気が波のように押し寄せる。

何も分からなくなり、私はとうとう眼を閉じた。

彼が去っていくのを止められない私は、あまりにも無力だった。