程なくしてやってくる明治維新を見ることなく、あなたは死んでしまう。

『君が為 尽くす心は水の泡 消えにし後は澄み渡るべき』

こんな悲しい句を詠んで、あなたは死んでしまうのに。

その時、以蔵さんがクスリと笑った。

「そんな顔するな」

以蔵さんは箸を手に取って魚の身をほぐすと、私の口の前にかざした。

「美味いか?」

私がコクンと頷くと唇だけで笑い、彼は杯を傾けた。

「お前と食事するのはこれが最後だ。沢山食え」

私にそう言うと、以蔵さんは浅く笑った。

「嫌だよ」

思わず拒否する言葉が口を突いて、私は以蔵さんを見つめた。

湧き上がる涙を止めることが出来ない。

「嫌だよ以蔵さん、サヨナラなんて嫌。お願いだから人斬りなんて止めて。あなたの信念を否定したくないけど、でも間違ってる。あなたにこんな生き方、して欲しくないの」

古びた机は私の涙を飽きることなく吸い込み、私はそれに答えるかのようにハラハラと泣いた。

「以蔵さん……ねえ以蔵さん」

以蔵さんが苦しげに眉を寄せて顔を背けた。

「俺は……こういう生き方しか出来ない」

私はガタンと席をたつと机を回り、以蔵さんの真横の椅子に腰を下ろした。

驚いた顔で以蔵さんは私を見たけど、私は言葉を止められなかった。