カラスが鳴き、帰り始めた16時。
鈴の病室には二人と一体がいた。
鈴はしょうやとロボットと向かい合っていた。
妙な空気が漂っていて、少し居心地が悪い。
そんな中、しょうやがしびれを切らしたように口を開く。
「お嬢さん。はじめまして。高島研究の高島しょうやと申します。」
しょうやはかなり優しい表情で鈴に名乗った。
一方鈴は、紳士のような挨拶に焦り、自分も名乗らねば‼と思い、意を決して自己紹介をした。
「えっと、な、長瀬 すじゅ…鈴と申しますぅ‼」
そう言いきると鈴は90度に近いくらいに勢いよく礼をした。
あぁ、噛んだ‼最悪だ‼
新しい親友の目の前でのはじめましてで、噛んだ‼‼恥ずかしい‼‼
顔が上げられない。
自分でも分かるくらい顔が真っ赤だ。
「フッ」
恐る恐る顔をあげると、にこやかに微笑むしょうやの顔が見えた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。いきなりロボットを贈るなんて言ってごめんな。」
少し悲しげなしょうやの表情に、鈴まで悲しくなってくる。
なにか、理由があって贈ったんだよな…ロボットを。
看護師からは鈴へのプレゼントだと聞かされているが、プレゼントにロボットを贈るのはどうかと思うし、わざわざ私のために贈るのも理由が分からない。
…しょうやさんに聞くしかないな。
「しょうやさん。」
「どうしたんだい?お嬢さん。」
「3つ質問してもいいですか?」
「もちろん。どんな内容なのかな?」
しょうやと鈴の視線がぶつかる。
しょうやの少し後ろにいるロボットは目を閉じて二人の会話を聞いている。
「しょうやさん。一つ目の質問です。なぜ、しょうやさんはこの子を作ってくれたんですか?」
しょうやさんは目を開いた。
そして、少し動揺したようにも見えた。
「それは…鈴ちゃんに事故の記憶を思い出してほしいからだよ。」
今度は私が目を開く番だった。
しょうやさんは本当のことをいっている。
しょうやさんの目は真剣だったから、分かるのだ。
「それじゃあ…2つ目の質問です。しょうやさんは私になぜ事故の記憶を思い出してほしいんですか…?」
この答えはすぐに返ってきた。
まるで、受験の時の面接のように。
「鈴ちゃんが、事故で亡くした女の子…。あの子の事を思い出せば、ココロの傷が癒えると思ったんだ。」
「私、ココロの傷なんて…」
「鈴ちゃん。君って、もともとかなりおとなしい子だったよね?今は明るく振る舞ってるけど…。けっこう疲れてるんじゃないか?」
「っ…」
「だから、ココロの置ける何かが必要だと思ったんだよ。」
鈴の目から溢れる涙は、今までの自分を慰めているのか、しょうやに疲れていることを見抜かれた驚きなのか、または悔しさなのかは、鈴本人しか分からない。