「何かもめてるみたいだ」
聴力も異常に良いらしい悠は、そう呟く。
たしかに、誰かが話しているような感じではある。でも、何を言っているかまでは私にはわからない。
そうしているうち、バタンとドアが閉まるような音が聞こえた。
「やばっ」
篤志さんが帰るところなんじゃ。
こんなところを見られたら、何て言われるかわからない。
「動かない方がいい」
ぐっと肩を抱かれ、動きを制限される。
そんなことをされたら、夜中に他人の家の前で屈んでいる状態でも、ドキッとしてしまう。
離してもらおうと口を開きかけた時、男女が言いあうような声が聞こえ、驚きで跳ね上がりそうになった。
一方、悠は冷静に、スーツから取りだしたスマホを操作し、その場を動画に収めようとしている。