「ごめんね、待った?」

「ううん、全然」


どんな顔をして良いのかわからず、窓の外を見たまま答える。


「何かあったんですか、高浜さん」


さすがに変だと思われたらしく、悠が高浜さんにたずねる。


「いいや、何も」


高浜さんは短く答えると、それ以上何も言わなかった。

だけど、バックミラーで少しだけ見えた彼の目元は、優しく笑っていた。

まるで、娘を生暖かい目で見守るお父さんのよう……。

だから、違うんだって~!!

ほら、中学生のときとか、「あんたあの子のこと好きなんでしょ~」ってからかわれると、本当にその日から気になりだして、いつの間にか好きになっちゃう……みたいなことあったじゃない。

暗示って怖いんだから。ほんと、やめてください。


「っていうか、なんで私、今日桜さんに紹介されたの?」


ちょっとだけ悠の方を向いて聞くと、彼はニヤリと笑った。

きっと高浜さんや篠田さんの前では出さないのであろう、黒い笑い方で。