レゼッタ姫はキツく唇を噛み締めると、アルフォンスの腕を放し、椅子に腰掛けた。その目にはうっすらと涙が見える。

何とかアルフォンスを思い留まらせようとここまでやってきたのに違いない。

しかしそれも叶わず、悲嘆に暮れる姿は哀れだった。だが何とも声をかけてやることが出来ず、侍女がテーブルに飾ってくれたアルフォンスの白い薔薇を見つめた。

「これが、真実です。姉上……今日限りで、私はこの城を去ります」

吐息とともに、静かな声が漏れ出された。

「折角のお茶会……台無しにしてしまって申し訳ありません」

澄んだ青い瞳を、セリスはもう、正面から見ることが出来なかった。

白い薔薇に目を向けたままでいると、その陰に青ざめて震えるレゼッタ姫が映った。かなり動揺しているようだ。何か声をかけるべきだろうか……そう思い悩んでいると。

アルフォンスが、お茶のカップに手を伸ばした。

その時、レゼッタ姫の肩がビクリと震えるのを見た。


その意味を、瞬時に理解するべきだった。

ずっと青ざめて震えていた彼女。

それはアルフォンスから真実を告げられたばかりではなく。

彼女がどんなに彼を愛していたのかということを、気付くべきだった。


アルフォンスが白いティーカップを口に運んだその瞬間に、レゼッタ姫は立ち上がった。

「駄目です、殿下! 飲まないで!!」

悲鳴に近い声を上げ、どん、とアルフォンスを突き飛ばす。

カラン、と大理石の上にカップが転がる。

驚いて目を見開いているうちに。

アルフォンスの顔が苦痛に歪み、ゴホッと咳き込んで、真っ赤な血を吐き出した……。