「先生、あたしの気持ち、迷惑?」
「そんな事はない。俺も男だからね。女の子に好かれるのは、純粋に嬉しいよ」

 精一杯の笑顔で振り返る。だが堤は笑っていなかった。真顔で俺を真っ直ぐ見据え、見透かしたような事を言う。

「ウソ。先生はあたしの事、本気で相手にしてないよ。迷惑でないなら一度くらい本音を聞かせて」

 俺は笑顔を消し腕を組むと、挑むように堤を見つめ返した。

「いいよ。ただし条件がある」
「また化学の問題?」

 俺の言葉を遮って、堤は小馬鹿にしたように笑う。少しムッとしながらも言葉を続けた。

「当たり前じゃないか。俺の方こそ、おまえが本気で相手にしているように見えない。俺は教師だ。何をすれば俺を喜ばせる事が出来るかくらい容易に想像がつくだろう? かろうじて落第を免れて、ホッとさせてくれる事はあったが、おまえは喜ばせるどころか、いつもガッカリさせてくれた」

 堤は悔しそうに唇を噛んで俺を睨む。

「化学の教科書は、もう捨てたか?」
「持ってる」
「意外だな」

 思わず本音がポロリと口をついて出た。大嫌いな化学の教科書なんか、用済みになった途端捨てたものと思っていた。

「授業中に先生と目が合った数を書いてあるから」

 今度は思わずため息が漏れた。真面目にこちらに注目している割に成績が悪いと思ったら、そういう事だったのか。