夜の街を梨花に腕を取られて歩きながら、遥人は鮮やかなショーウインドウの中ばかり窺っていた。
いや、物を買ってやったところで、ご機嫌取りなど出来そうにはないが、あの困ったシェヘラザードは。
梨花は横で、ずっとなにかしゃべっている。
適当に相槌を打っていたが、自分が聞いていないことにも、恐らく、気づいていないだろう。
那智は、ちゃんと家に帰れただろうか。
夜は物騒だし、出来るなら、あのまま、うちに居て欲しかったが、それは自分の我儘以外の何物でもないことはわかっている。
梨花はずっとこちらを向いてしゃべっていた。
だから、彼女は気づいていなかった。
彼女が背を向けている方側、溜息をついて見上げたロシア料理の店の二階の窓から見えたものに。
那智だ。
機嫌悪そうになにか食べている。
こいつ、家に帰らなかったな、と思ったのだが、問題はそこのところではない。
那智の向かいには男が居た。
驚くくらい男前のその若い男には見覚えがあった。
梨花の浮気相手の、あの営業の男だ。



