アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 鍵をかけて出よう、と思ったが、自分のキーホルダーについた鍵を見ているうちに、ふいに怒りの矛先が変わった。

 携帯を出して、かける。
 すぐに相手は出た。

『那智?
 ちょっと今、忙し……』

「莫迦っ!」
と言って切ってやった。

 八つ当たりなのはわかっているが、他に感情の持っていき場がなかったからだ。

 那智が携帯をしまい、玄関まで行ったとき、またそれが鳴り出した。

 遥人がフォローにかけて来るには早すぎる。

 見ると、桜田だった。

 いきなり怒鳴られて切られたから、かけてきたのだろう。

 少し冷静になった那智は、ゆっくりそれに出た。

『どうした、那智。
 大丈夫か?』

「ごめんなさい。
 八つ当たり……

 いや、ほんとのところ、八つ当たりでもないんだけど」
と言うと、

『なんだかわからんが、帰ろうか』
と言い出す。

「いいです。
 お仕事してください。

 もしかして、最近、忙しい?」
と訊くと、ああ、と言う。