アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 梨花が浮かれた声で返事をする。

 その様子を見ていると、梨花は、本当に遥人が好きなようにも思える。

 じゃあ、なんで、浮気してるんだろうな、と思った。

 亮太が言うように、それはそれとして、単に気の多い女なのだろうか。

「じゃあ、出ようか」

 遥人は玄関に梨花を待たせたまま、テーブルの上の鍵を取りにくる。

 ちらとこちらを見た。

 大丈夫です。
 鍵かけて出るから、という意味合いを込めて、ソファの後ろから目までを出して、頷いてみせる。

 遥人が小さく頷き返した。

 やがて、梨花と話しながら、遥人は出て行ってしまう。

 電気の消えた部屋で、那智はひとつ息を吐いて座り込む。

 ……本当は居てあげた方がいいのかもしれないけど。

 梨花さんと何処かに泊まって、そのまま出社しちゃったりしたら、私、莫迦みたいだしな。

 いや、そもそも、こんなことやってる時点で莫迦みたいなのだが。

 それに、梨花さんの香水の匂いが残るこの部屋には居たくないし。

 そのまま、カーテンから漏れ入る明かりの中で、じっとして、いろいろと考えていたが、そこで、ふと、思った。

 今、目の前にいきなり、誰か知らない人が現れて、しゃがんでたら、どうしよう。

 振り返ったら、誰か知らない人がしゃがんでたら、どうしよう。

 この場合の誰か知らない人、というのはもちろん、霊だ。

 さっきまで、怒涛のように起こった出来事に、ぼんやりとしていたのだが、冷静になってみると、暗がりに一人が座っているというこの状況が怖くなってくる。