アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 梨花は入ってくるなり、遥人に飛びついてキスしてきた。

 まるで、ずっと会いたかった恋人にやっと会えたかのように。

 いやいやいやいや。
 貴女、浮気してましたよねっ!?

 そう突っ込みたかったが、此処で出てはいけない。

 そもそも、遥人と付き合っているわけでもないので、口を出す権利は那智にはなかった。

 っていうか、キス、長いんですけどっ。

 見てなくてもいいのに、そのまま、ソファの陰からガン見してしまっていた。

 遥人は自分が此処に潜んでいるせいか、抱きついてキスしてくる梨花の身体に手を回さないまま、固まっている。

 王子様、別に私なんぞに気を使ってくださらなくてもいいんですよ〜っ。

 どうせ、私なんて、シェヘラザードにもなれない、語って聞かせるだけの下女ですからっ。

 最初に浮気に付き合えと言われて断ったのも忘れ、心の中で遥人を罵る。

 長すぎるキスに、呪ってやる〜っ、とソファを握りしめたとき、梨花が離れたので、慌てて、また陰に隠れた。

 所詮は、小心者だった。

「少しお腹が空いたから、なにか食べに行かないか?」

 遥人がそう言うのが聞こえてきた。