アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「……此処に居ないと何処かに行くかもしれないじゃないか」

「はい?」

「いや、いい。
 わかった。

 送ってってやるから帰れ」

 遥人はそれ以上、続きを言いたくないようで、照れたように早口にしゃべる。

 可愛い……。

 普段は見られないそんな表情を見て、つい、そう思ってしまった。

 だが、よく考えたら、可愛いと思うような場面ではない。

 照れながら、他所の男のところに行かないでくれと言ってはいるのだが。

 でも、要するに、これから他所の女のところに行くんじゃない、と思った。

 やっぱり、腹立つな。

 専務を好きとかじゃないけど。

 ……本当にそういうんじゃないけどっ。

 那智は、すっくと立ち上がる。

「わかりました。
 やっぱり、帰ります。

 送ってってくださいっ」
と言ったとき、遥人の携帯が鳴った。

 梨花のようだ。

 黙って、それを見つめている。

「早く出たらどうですか?
 なにもしゃべったりしませんから」

 遥人は少し申し訳なさそうな顔をして、電話に出た。