アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「なんでですか」

「夜も遅いから、危ないだろう」
「タクシーででも帰りますよ」

「朝には戻るから、此処に居てくれ」

 何故かそう懇願してくる遥人に、
「……そろそろ殴ってもいいですか?」
と那智は言った。

 さすがにそれはない、と思ったのだ。

 今から、他所の女と会ってくるから、朝まで待ってろなんて。

 いや、腹を立てられるような立場にはないのはわかっている。

 私はただ、頼まれて、専務を寝かしつけてるだけなのだから――。

 だが、なんだか泣きそうだった。

 その顔を遥人に見せないように俯き、涙を落とすまいと頑張っていると、ふいに遥人の手が頬に触れた。

 顔を近づけてきた遥人だが、そこでやめる。

 手を離し、
「確かに、俺にお前を引き止める権利はない」
と言った。

「なんで此処に居ろなんて言うんですか」

 そんな遥人を恨みがましく見て言うと、彼は言いにくそうな顔をする。

「ちゃんと言ってくれたら、居てもいいです」

 なんだかわからないが、ちょっと可哀想な感じがしてきて、そう言ってしまった。

 いや、まあ、可哀想なのは私なんだが……。