アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 あそこで待て、と遥人は行きかけて、
「九時半頃な」
と言ってくる。

 う、九時半。

 私はそんな遅くまで仕事してませんが、と思っていると、それに気づいたらしく、
「じゃあ、携帯の番号を教えろ。
 終わったら連絡する」
と言ってきた。

「は、はい」
と言いながら、慌てて携帯を取り出した。

「それから、それ貸せ」

「は?」

「俺のハンコを貰いに来たんじゃないのか」

 あ、ああ、とすっかり忘れていた本来の目的の書類を渡すと、遥人は溜息をつき、
「いいのか、人事がこんなんで」
と言っていた。