アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 那智は他人行儀に頭を下げてみせる。

 亮太は振り返り、
「結構です」
と言う。

 いつも調子のいい亮太が、専務に対して攻撃的なような、と思いながら眺めていた。

「じゃ、那智。
 ちょっと遠くまで行きたいから、桃子に言って、早めに出ろ」

 亮太にそう言われ、ああ、うん、と答える。

 少し遠くにランチに行くときは、誰かに誤魔化してもらって、十二時より少し前に出ることがある。

 桃子には、また明日奢るかな、と思いながら、亮太を見送っていると、行きかけた亮太は振り返り、

「そうだ。
 桃子には俺と出かけると言っておけよ」
と言う。

「え?」
「その方がたぶん、のちのち都合がいいからだ」

「亮太」
と呼びかけたが、もう中に入っていってしまった。

 なんとなくだが、専務から離れたかったように見えた。

「なかなか機転の利く男だな」
と遥人が言う。

「……もしかして、私と専務が疑われないように、自分に疑いの目を向けようとしてくれてるとか?」

 亮太と二人で遠くまで出かけるから、桃子にはまた別に奢るなんて言い方を桃子にすれば、彼女は確実に亮太との仲を疑うだろうし。

 性格的に、つるっと誰かにしゃべってしまいそうな気がした。