アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 それにしても、まずい。
 普段なら、もう給湯室に居る時間だ、と思ったとき、部屋で携帯が鳴り出した。

 やばいっ。
 桃子だろうか、と走って戻ると、亮太だった。

 開口一番、
『お前、会社まだ来てないな?
 専務も一緒か』
と言ってくる。

「えっ? なんでっ?」

『さっき、桃子がお前が来てないと言うから、誤魔化しておいてやった。

 朝、エレベーターで会ったって言っておいたぞ。

 ストッキングに缶コーヒーこぼして、財布持って慌てて出てくとこだったって』

「うわ、リアル過ぎ」
と言うと、

『前に一度やったじゃねえか』
と言われる。

 そういえば、そうだ。

 そのとき、会社近くのコンビニでおむすびを買っていた亮太と出会って、軽く指先が当たっただけなのに缶コーヒーがひっくり返った不運を延々と嘆き、

『……いいから、早く戻れ』
と言われたのだった。

 あのときは、もともと早めに会社に行っていたから、特に問題はなかったのだが。