アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜





 ふと目を覚ました遥人は、まだ、暗い時間だな、と思った。

 カーテンの外は暗く、時折、車が下の道路を駆け抜ける音がする。

 早朝のようだった。

 こんな時間に目を覚ますと、いつもなら、もう眠れないのだが、今日はもう一度、寝られそうな気がしていた。

 那智はもう居なくなっていたが、那智の匂いがした。

 シーツのせいかもしれないと思う。

 いつも那智から香るのと同じ洗剤の匂いがするから。

 何故、あの娘が居ると眠れるのだろうな、といつも不思議に思う。

 那智の膝の体温と、あのなにも考えてなさそうな口調が眠りへといざなうのか。

 いや、たぶん、それだけではない。

 那智の中に、自分と同じものがあるのを感じるからだ。

 那智は、つるんとしたなにも考えてなさそうな小動物的な目をしているが、時折、その黒い瞳に陰が宿る。

『この部屋に……誰か居て欲しかったんです』

 そう言ったときの那智の瞳は、鏡で見る自分の目と少し似ていた。

 起き上がり、お手洗いに行ったとき、玄関の方からコトンと音がするのを聞いた。

 朝刊のようだった。

 その瞬間、ドアの外から溜息が聞こえた。

 どうやら、新聞配達の人間が溜息をついているようだった。