「ただいま」
と那智がドアを開けると、
「お帰り」
と声がした。
「おやおや、来てたんですか」
と那智は朝日の中、窓辺に立つ若い男に溜息をつく。
「なんだ。
機嫌が悪いな。
っていうか、朝帰りか」
「はあ。
ちょっと、七百円前後で買われまして」
と言うと、はあ? という顔を男はする。
「着替えたら、またすぐ行きます。
仕事なんで」
「そうか」
と言った男が手招きする。
「なんですか、桜田さん」
「その呼び方やめろよ」
眉をひそめた桜田は、那智を抱き寄せる。
「俺ももう出るが、気をつけて行ってこい」
そう言い、頬に口づけてきた。
「そういうのやめてくださいよ。
お母さんのが移ったんですか」
海外が長い母親は出かける前、よくそうして、那智にキスしていた。
「お前が寂しくないようにだ」
と桜田は言う。
「はいはい。
じゃあ、また」
と那智はバスルームに行きかけ、戻った。
「朝ご飯食べました?」



