「ありがとうございました」
とマンションの前で頭を下げると、遥人は、
「待ってて送っていってもいいんだぞ」
と言ってくる。
「いえ、そんなことしたら、大変なことになるじゃないですか」
ありがとうございました、ともう一度頭を下げたが、遥人はマンションを見上げていて、すぐには行かない。
「お前、家族と暮らしてるんだったか?」
およそ、若い娘が一人で住むようなマンションではないからだろう。
「ああ、今は一人です」
と自分でもその茶系でまとめられた大きなマンションを振り返りながら言った。
「随分いいところに住んでるんだな」
「両親共に働いてましたから」
ふうん、と言う。
「父は警察官だったんです。
だから、身許は確かですよ」
と笑ってみせた。
「まあ、二人が残してくれた財産はこれだけなんですけどね」
そうか、と遥人は言う。
「では、また後で。
失礼します」
と那智は頭を下げた。



