ドアの外、耳を澄まして中の様子を伺っていた桜田はいきなり、肩を叩かれ、ひっ、と声を上げかける。

 その様子に叩いた方が驚いていた。

「あー、びっくりした。
 どうしたの。

 貴方が隙だらけなんて」

 洋人が立っていた。

「なにやってんだ。
 学校はどうした」
と言うと、

「今日、日曜だよ」
と言う答えが返ってきた。

 ああ、そりゃそうか。

 ちっ、と舌打ちをし、
「お前、いつも制服着てるから紛らわしいんだよ」
と言う。

 それは恐らく、自分を弱い一高校生として、人の中に埋没させるための彼の戦略なのだろうが。

「耳を当ててても、このマンション、そんなに壁薄くないよ」
と言われ、わかってるっ、と返す。

「じゃあな。
 もう一段落したことだし、那智たちの周りをうろつくなよっ。

 ……とあいつにも言っておけっ」
と言い、行こうとすると、

「でも、あれでも、あの人も母親だしねえ」
と言ってくる。

「桜田さん」
「なんだ」

「あの人が若い男の子に執着するのは、昔の貴方の面影を追ってるからだと思うんだよね」

 急にそんなことを言い出した洋人を足を止め、振り返る。