アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「専務ほどじゃありませんよ」
としれっと言ってやる。

「若くして父親になったのに、子供を見捨てることなく、可愛がり、養おうとした姿がとても格好よかったんです。

 大人になった彼は母を追って警察に入ったので、少し祖母の信用を得られて、一緒に暮らすことを許されました」

 えっ? 警察? と遥人は訊き返す。

 たぶん、母も警察に居るというところは意外だったのだろう。

「そもそも、母は、桜田さんを補導しようとしていたはずだったんですが。
 桜田さん、昔はちょっとヤンチャが過ぎていたようなので」

「そういえば、父親は警察官だった、と言っていたな」

「はい。
 警察官だったんです。

 公安に移動になって、潜入捜査のために、警察を辞めて、一般企業に就職を」

 公安の人間はそれと知られるわけにはいかないので、よくそういう手法を使う。

 だから、家族さえも、本当に父親は警察を辞めたと思っていることも多い。

「親の愛情って、いろいろですよね」
とぬいぐるみを眺めながら那智は言う。

「川村政臣は、貴方がなにをしようとしているのか知っていたと思いますが。

 自分を憎むことが貴方の生きる活力になるのならと思って、黙っていたんでしょうね」

「那智」
と遥人は迷うように呼びかけてくる。