遥人の許を去った那智は寝室に閉じこもり、ぬいぐるみの群れに顔を埋める。
あらかじめ作っておいた自分守るための砦だ。
『桜田さん』が、『お父さん』がくれたぬいぐるみだ。
大好きだったお父さんが出て行って、その理由が彼の浮気だったこともあり、決別の意味を込めて、『桜田さん』と呼ぶようになった。
養子だったお父さんは名字も変わってしまったことだし。
だが、大人になった今ならわかる。
桜田だけが悪かったわけではないのだと。
那智は目を閉じ、鼻をくすぐるぬいぐみの毛先に顔をこすりつける。
その懐かしい匂いを嗅ぎなから、昔、よくこうして眠ったな、と思った。
若くしてうっかり父親になってしまった桜田はどうしていいかわからず、お小遣いを貯めてはせっせとぬいぐるみを買い、那智の許に運んできていた。
そんな中学生の桜田を思い出し、笑ってしまう。
きっとこれがあの人の精一杯の愛情だったのだ。
だが、疲れたり、不安になったりしたとき、無性にこのぬいぐるみの海で眠りたくなる。
まだ幼い顔をしていた桜田だったが、那智にとって、彼は立派な「お父さん」だった。
『那智は辰巳遥人が俺に似てるから好きなんだろう』
自信満々に桜田は言う。
ちょっと当たっているかもと思った。
娘は父親に似た相手を連れてきがちだと言うから。



