アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 政臣が自分を見上げて言う。

「お前、人の女を罵るなよ」
「俺の母親ですよ!?」

 あのとき捨てておいて、なに言ってんだっ、と思っていると、政臣は、あっけらかんと言った。

「いや、もう死ぬと思ってたんだ。
 だから、美奈子の足手まといにはなりたくなかった」
と母、美奈子を懐かしむように目を細める。

「……あれから何年経ったと思ってるんですか。
 もう充分な長生きですよね」

「医学の進歩というのは恐ろしいものだな、遥人」

「きっと貴方は今回も死にませんよ」
と言い捨てる。

「まあ、一応、これは助かるかな、と思ってから、性懲りも無く、お前たちを探してみたんだ。

 だが、すぐには見つからなくて。

 そういう意味では、そこのお嬢さんが言うように、お前の母親は聡明すぎたんだろう。

 自分たちの痕跡も消せないような女なら、すぐに居所をつかめただろうに」

 そういう意味では、那智の方が賢いかな、と思う。

 那智なら、逆に、わざと、たどれるような痕跡を残していそうだからだ。

 ……よく考えたら、恐ろしいな、こいつ、と思った。

 カピバラみたいに、のほーんとして見えて、中身はやはり、残虐な王をやり込めた狡猾なシェヘラザードだ。

 それも自分のためにやっているわけでもないところが、まさしくシェヘラザードそのものだ。