アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 遥人はあまり変わった感じのしない彼の顔を眺める。

 意外と感慨がなかった。

 年をとったと感じないのは、彼が老齢に達しているからだ。

 ある程度の年齢を越えると、十年二十年くらい経とうとも、あまり変化が感じられない。

「どうした。
 やらないのか」

 そう言い、政臣は車椅子を押して自分に近づく。

 遥人は先程、或る人物から受け取ったものをフロックコートの内側から取り出し、政臣の額に向けた。

『これを貸してやるよ』

 控え室に現れた彼は、突然の人の気配に身構えた自分にそれを渡してくれた。

『ナイフで刺すとか難しいぞ。
 技術的な問題もあるが、少しでも相手に情があるのなら、生身の人間に切りつけるのは人の心理として難しい。

 これなら、簡単だよ。
 引き金を引くだけだ』

 ほら、と桜田は自分の手に銃を握らせた。

 その異様な重厚さに、持ったことのない自分でも、それが本物だと感じた。

 すべてがもう、誰かの罠にからめとられて動いている気がしていた。

 それでももう止まれない。

「どうした。
 撃たないのか」