アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「どっちかって言うと、貴方を知らないまま消えられる方が嫌です。
 一生、心の傷になりますよ。

 それから、どのみち貴方は消えてしまうのなら、ずっと心に傷を背負うのは私だけでしょう?

 私なら大丈夫ですよ。

 そのうち、傷が癒えたら、誰かと小さな家でも建てて、狭いながらも小さな我が家で、やさしい旦那様と子供たちに囲まれて、幸せに暮らしますから。

 最後は夫と、縁側で並んでお茶を飲んで、庭で駆け回る子供たちを眺めるんです」

「リアルすぎて腹が立つな」
と遥人が苦笑する。

 遥人はもう荷造りは諦めたようだった。

 手を離し、那智の腕をつかむと、自分から口づけてくる。

「じゃあ、泊まってけ」
「はい」

「で?」

「はい?」

「今夜は、なにを語ってくれるんだ?
 シェヘラザード」

 そう笑ってくる遥人に、
「……語ることなんて、もうなにもありませんよ」
と那智もまた、少しだけ笑ってみせた。