アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「俺は子供は作ってないぞ」

「でも、なんだか出来てそうな気がします」

 例え、キスしかしていなくとも――。
 
 那智は大真面目にお腹に手をやって見せる。

「どうやって」
「根性で」
と言うと、遥人は吹き出した。

 だって、ずっと遥人への想いが身体に沈殿していっている気がするから。

「専務。
 最初は専務の方が浮気しようって誘ってきたのに、なんで最後までなにもしなかったんですか」

「最初はお前が嫌がったからだろ。

 途中からは……
 俺が嫌だったからだ」

 遥人は自分の腕をつかんでいる那智の手を外させ、その手を重ねると、握りしめた。

「お前に触れるのが怖くなったからだ。
 俺はこの世から居なくなるのに」

「貴方が心配しているのは、自分のことですか?
 私のことですか?」

 両方だ、と遥人は言った。

「お前に触れて、計画が実行できなくなるのも嫌だし。

 うぬぼれかもしれないが。
 そんな関係になったあとで、お前を一人残していくのは、お前に傷をつけて去るようで、嫌だったんだ」
と視線を逸らす。

 那智は遥人に手を握られたまま、身を乗り出し、初めて自分から口づけた。

 遥人は驚いたようにじっとしていた。