アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 なんか腹が立ってきたので、
「まあ、専務とよりは多めにキスしてるかもしれませんね」
と言ってやると、

「……淫乱だな」
と言いながら、少し笑ったようだった。

「なんですか、その小馬鹿にしたような顔っ。
 どうせその程度のことしか出来ないだろうと思ってるんでしょう?」

「いや、その程度のことだなんて思ってはいない。
 正直、腑は煮えくり返っているが、まあ、想像していたよりはマシだったかな、と思っただけだ」

「……なんの想像してるんですか」

 亮太の幸せなおじいちゃんおばあちゃんの妄想よりも、ずいぶんとドス黒そうだ。

 遥人は、那智が押さえているダンボールにガムテープを貼りながら言う。

「だが、俺が居なくなれば、お前は誰かと付き合って結婚するんだろう、とは思う」

 遥人の表情を見ていた那智は、さっき亮太が話していた、物語にもならないくらい平凡だが、幸せな一家庭の未来が自分の未来として確定したようで、泣きたくなる。

 遥人と出会う前だったら、それもいいかと思ったかもしれない。

 そういう未来も幸せかと。

 那智はうつむき、遥人の腕をつかんだ。

 テープを貼っていた遥人の手が止まる。