遥人の部屋の前で、那智は鍵を手にとった。
これでこの扉を開けることはもうないだろう。
最後にチャイムを鳴らさずに開けてみようかな、と思ったのだが、やはり、いつものように鳴らした。
出てきた遥人が、
「自分で開けて入ってこい」
と眉をひそめる。
その顔を見て、ほっとした。
もう二度と見ることはないかな、とちょっと思っていたからだ。
出来れば、最後はいつも通りに過ごしたかったのだが、部屋は珍しく雑然としていた。
雑然、違うか、と思う。
整頓はされているが、余計なものが出ているので、そう感じるだけだ。
リビングにダンボールが積み重ねられていた。
遥人は部屋を整理していたようだった。
「此処、引き払うんですか?」
「……そうなるだろうな」
「新居は別に用意してあるんですか?」
「いや、急だったから、梨花が買ったマンションはまだ建設中で。
しばらくは二人で此処に住むことになっている」
「それなのに、梨花さんは、此処に来てないんですか?」
普通、新居に引っ越す前の雑事をしに来ていたりしないだろうかと思ったのだが、遥人は、
「家族で過ごす最後の夜だから、家でゆっくり過ごすと言っていた」
と言う。



