アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「……後悔なら、きっとするよ」

 那智が窓の外を見ると、亮太は何故か、また車を寄せた。

 振り向いた瞬間に助手席の背もたれに手をかけ、身を乗り出してきた亮太にキスされる。

 振りほどこうと頑張ったが、すぐには無理だった。

「亮太っ」
とバックで頭を殴ると、

「……撲殺だ。
 殺人事件だ」
と頭を押さえて呟く。

「正当防衛よ。
 強姦罪で訴えてやるっ」
と言うと、大真面目な顔で、いや、やめとけ、と言ってきた。

「裁判官に失笑されるから」

 そう言ったあとは、いつもの調子で、車を元に戻して、走り出す。

「ひどい〜。
 ひどい〜。

 まだ専務ともそんなにキスしてないのに〜」

「まだってか。
 もう終わりだろ」

 どすっ、と来たぞ、その一言。

 こいつ、慰める気は皆無だな、と思った。

「専務はもう諦めて、新しい恋に向かって羽ばたけ」

「新しい恋ってなにっ?」
と怒っている勢いのまま振り向いて言うと、亮太は無言で自分を指差す。

「ないなー」
と言うと、訳知り顔で、

「最初はそう思うもんだよ。
 お前、最初の頃、専務を見て、この人だって思ったか」
と言ってくる。

 ……そういえば、思わなかったけど。