アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 まだ答えてないのに、
「専務だな」
と言う。

「もう梨花との式が目前だって言うのに」

「一緒にカピバラ見てきただけだもん」

 やっと飲めた甘々の珈琲を口にしながら、そう言うと、
「日帰りか?」
と訊いてくる。

「泊まり」

「……泊まりで旅行に行って、なんにもなかったのか。

 気分も相当盛り上がったろうに。

 余程、専務の意志が固いか、余程、お前に魅力がないかだな」
と失礼なことを言ってくる。

「どっちでもいいよ」
と呟き、那智はその場にしゃがんだ。

 洋人と、そして、桜田も少し教えてくれたから、遥人の大体の事情はわかっている。

 細かいことは二人とも教えてくれなかったが。

 これ以上、那智が首を突っ込まないようにだろう。

 だが、今更だ。

 遥人が後戻りが出来ないように、自分もまた、遥人を知らなかった頃には戻れない、と思っていた。

「これでいいのか?」

 亮太が頭の上で訊いてくる。

 良くはない。

 だが、どうすればいいのか。
 もう今の自分にはわからない。

 遥人を止めることなんて、遥人のために出来ないし。

 でも――、と思ったとき、亮太が言った。

「那智、ちょっと立て」