アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 それから専務はやめろ、と言ってきた。

 そうだったそうだった、と思いながら、でも、専務も駄目、遥人さんも駄目なら、なんて呼べばいいんだ、と思う。

 私の方が男なら、『おい』とかだけで済むんだろうけど。

 私が専務に、おい、とか言ったら、恐らく、この滝に沈められるな……。

 軽くカクテルを呑みながら、那智は風呂が長かった言い訳を始めた。

「だって、本当に身体の芯から冷えてたんですよ〜。

 車に乗ってもしばらく、ぬくもらなかったくらい。

 背中に霊でも張りついてるのかと思いましたよー」
と言うと、

「俺はそこまでじゃなかったが」
と遥人が言うので、

「それは専務がスカートじゃないからですよ」
と言ってやると、

「俺にスカートを穿けと言うのか」
と言ってくる。

 一瞬、想像してしまい、派手に吹き出すと、
「酔ってるのか?」
と言われた。

「いえいえ、私はこの程度では。
 お母さんの子ですから」

「俺はお前の母親を知らんだろうが」