案内された部屋は、創業当時からあるという部屋で新しくはなかったが、雰囲気のいい部屋だった。
やたら広くて、正面に見える庭が立派だ。
「すみませんねえ。
露天風呂つきの部屋は人気で。
でも、大浴場についてる露天もなかなかいいんですよ」
とお茶を淹れながら、仲居さんが教えてくれる。
遥人が心づけを渡そうとすると、いやあ、最近は受け取らないことになってるんで、と言っていたが、那智が、
「でも、ほんの気持ちですので、どうぞ」
と微笑むと、
「すみません」
と受け取ってくれた。
「すみません。
専務のお金なのに、どうぞとか言っちゃって」
と仲居さんが出て行ったあとで言うと、遥人は迷うような顔をする。
「……お前、此処では、専務はやめろ」
「なんでですか?」
「人に聞かれたら、不倫旅行かなにかみたいだからだ」
「えーと……でも、なんて呼んだら」
と那智は赤くなったが、遥人はなにも言わなかった。
ただ、
「専務とか呼ばれると、微妙に仕事中な気がして落ち着かないしな」
と言ってくる。
「じゃあ、今までも落ち着かなかったんじゃないですか?」



