アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「でも、うちのお母さんと桜田さん、よく手をつないで歩いてましたよ」

「俺はできないんだ。
 人前では」

「人が居なかったらいいんですか?」

 突っ込んで訊いてくるなあ、という顔をする。

「だって……ちゃんとしたデートなんて、たぶん、これが最初で最後だから」

 ああ、言うまいかと思ったのに、言ってしまった。

 しんみりしてしまうではないか。

 そう思い、那智は話を切り替えた。

「映像見てるときはあったかそうだなって思ったんですけど。
 あれ、あったかいのは、カピバラだけですね」

「……当たり前だろうが」

 温かいのは湯に浸かっているカピバラ様だけ。
 人間は吹きっさらしで、ただ寒かった。

 あの映像での湯気の上がりようから察して、防寒着を増やしてくるべきだった。

「でも、見られて満足ですっ」
と拳を作ると、遥人は笑う。

「なにか食べるか」
と訊いてきた。

 はいっ、と那智は、先程までの物悲しい雰囲気を吹き飛ばすように、勢いよく答える。

 ともかく、なにか食べて温まりたかった。