アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「梨花さん、言ったはずです。
 桜田さんを選ぶのなら、この人を幸せにして」

 おいっ、という目で、桜田が見る。

 勝手に梨花との話を進めるな、と言いたいのだろう。

「でも、貴方は桜田さんを好きなんじゃないですよね?
 ちょうどよく優しくしてくれる人が現れたから、甘えてみただけ」

 ……わからない、と梨花は言った。

 初めて見る、子供のような頼りない顔で。

「わからない。
 そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。

 遥人さんの心が私を向いてないのはわかってる。
 あの人はただ、出世したかっただけ。

 でも、桜田さんも私のことを好きなわけじゃない。

 桜田さんは、今も前の奥さんが好きなんですよね?」

 梨花のその言葉に桜田を振り向くと、彼は困った顔をした。

 自分の本心をしゃべられたからではない。

 そんなことは知っていた。

 梨花にそこまで話していたということは、なんだかんだ言いながら、思ったより彼女に気を許していたということだ。

「……別にお母さんにはチクりませんから」
と小声で言う。