アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「いや、そうやって、突き放すから、こうなったんじゃないですか?」

 桜田は那智の身体に手を回し、抱き寄せる。

「じゃあ、ずっとこうしてたら、お前は遥人を忘れるか?」

「……それはもう無理ですよ。
 貴方だって、そうだったでしょう?

 でも、そうか。
 梨花さんにとっての貴方は、もしかしたら、私にとってのウサギのぬいぐるみなのかもしれませんね」

 ウサギ? と言ったあとで、桜田は、ああ、と言う。

 最後に彼がくれたあの大きなウサギのぬいぐるみだ。

「すがって抱きしめていたら、なにもかも忘れられる気がしてたんです」

 あのウサギは桜田の象徴だった。

 いや、桜田の象徴というより、桜田が自分にかけてくれる無償の愛情の象徴だった。

 でも、あれを抱きしめても、すべてを忘れるのはもう無理だ。

 桜田よりも、遥人の方が自分の中で大きな存在になってしまっているから。

 そのとき、上から音が聞こえた。

 ヒールの音だ。
 梨花が立っていた。

 すごい勢いで駆け下りてきて、那智の頬をひっぱたく。

「いや、ちょっと!
 梨花さん、待った!」
と言うのを梨花は聞かない。

「やめろ、梨花!」
と桜田が割って入ると、梨花は悔しそうな顔をした。