アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「うわっ、もうっ。
 なんなんですかっ」

 遥人は抱き寄せるように、那智の肩に手を回すと、顔を近づけ、囁いた。

「俺にはお前だけだ。
 結婚してくれ」

 手を離し、
「これでいいか」
と勝ち誇ってくる。

「……まあ、最後のがなければ」
と平静を装い、言ってみたが、実のところ、かなり心臓に悪かった。

 ああ、好みの顔じゃないとか言ってしまって、すみません。

 間近に見たら、ちょっと気を失いそうでした。

 何故、美しい顔というのは、こうも人を狂わせるのか。

 生き残るために、子孫を美しくしようという遺伝子の策略だろうかな、と遥人が聞いたら、お前の方が余程、ロマンがないだろ、と言いそうなことを考える。

「よし、納得したのなら、俺と浮気しろ」

「いや、ちょっと……」

「往生際の悪い奴だな」
と片目で睨んでくる遥人に、

 往生際とかいう問題ですか~?
と思っていた。

「あのー、でも、今日はもう遅いので、専務もおやすみになられた方が」

 そそくさと帰ろうと鞄をつかんだが、その手をつかまれる。

「大丈夫だ。
 夜はあまり寝ないから」
と言い出した。