アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

「ちょうど今、貴方を呪ってたところだったんですよ」
と言うと、は? という顔をする。

「いえ。
 あ、じゃあ、私は知らんぷりをした方がいいのでは?」

「他所の会社の営業に知らんぷりする社員も問題だろう」
と言われ、ご苦労ですね、いろいろと、と溜息をつくと、桜田は、渋い顔のまま、

「梨花に連れて逃げてくれと言われたよ」
と言ってきた。

「え?」

「俺が連れて逃げることはできない。
 逃げるかどうかは、お前が決めろと言った。

 急に式が早まったので、不安になったんだろう。

 遥人の心が自分にないのは、幾ら彼女でも、わかっているだろうからな」

「……もし、梨花さんが、本気で貴方を選んだら、貴方は彼女を連れて逃げるんですか?」

 いや、それはできない、と桜田は真面目な顔で言った。

「お前たちにとっては、その方が都合がいいんだろうが」
と言ってくるので、那智は上を向いて少し考え、

「いえ。そうでもないです。
 梨花さんとの結婚が駄目になっても、あの人はきっとまた、なにか考えますよ」

 どのみち、自分の側には居てくれないだろう、と言うと、桜田は溜息をついた。

「なんでこうなるんだ。
 お前には、俺たちから離れて幸せに暮らして欲しかったのに」