アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜





 長いようで、短かったな。

 そんなことを思いながら、那智は会社の廊下から窓の外を見た。

 入社してからずっと見てきた風景だが、呑気に鼻歌など歌いながら、此処を通って、お昼なに食べようかななんて思いながら、外を眺めていた日々が今は遠い。

 私、すべてが終わったあとで、今まで通りに暮らせるのだろうかな、と思う。

 そういえば、桜田さんがあんなところで梨花さんとキスしてたせいで、こんなことになったんだった。

 おのれ、桜田。

 だが、では、遥人との関係が、こんな風にならないままでよかったかと言うと、そうは思わない。

 最初っから、実るはずのない恋だったが、知らない方がよかったなんて、やっぱり思えない。

 そんなことを考えていると、誰かが階段の方から手招きしていた。

 一瞬、また公子がなにか情報を取得してきて呼んでるのかと思ったが、その手には見覚えがあった。

 なにしに来てんだ、この人。
 って、仕事か、と思いながら行くと、案の定、桜田が居た。

 人気のない階段の冷たい壁にすがり、腕を組んで渋い顔をしている。

「なにしてるんですか」
と問うと、

「仕事だ」
と当たり前の答えが返ってきた。