アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜

 離れた遥人は少し迷ったあとで、那智を抱きしめてくる。

 そのまま、遥人の胸にすがっていると、無性に泣きたくなってきた。

 嬉しかったからかもしれないし、この先に訪れるだろうものが恐ろしかったからかもしれない。

 しばらくして、那智は口を開いた。

「この夜景、見せてくれたかったんですか?」

 部屋では駄目だと言った遥人の言葉を思い出しながら、そう訊く。

「いや、それもあるが。
 家の中ではちょっと。

 その先のことまでしてしまいそうだったから。

 外でなら、と思ったんだが。

 ……かえって気分が盛り上がってしまった気もしている」

 大真面目にそう言ってくるので、笑ってしまった。

「帰ろう」
と遥人は手を握ってくる。

 草むらを踏んで歩きながら、遥人は言った。

「……お前は初めてだと言ったが、俺も初めてだ」

 え? と那智は見上げる。

「自分から誰かにキスしたのは、お前が初めてだ」

 ちょっと泣きそうになるような。

 自分からじゃないのは、たくさんあるのかな、と悲しくなったような。